テニス肘を放置すると、どうなる?
テニス肘は、「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)」と呼ばれるスポーツ障害の一種です。スポーツに限らず、日常の繰り返し動作でも発症することがあります。
テニス肘を放置すると、痛みが徐々に悪化し、重症化するおそれがあります。ここでは、テニス肘の初期症状と、それを放置してしまった場合にどのようなリスクがあるのかを解説します。
テニス肘の初期症状
テニス肘の初期段階には、下記のような症状がみられます。
・肘の外側の痛み
・物を持ち上げるときの痛み
・タオルを絞るときの痛み
・安静時には痛みがない
中でも特徴的なのが、肘の外側の痛みです。初期段階では、動作時に痛みを感じることが多く、安静にしていれば痛みが和らいだり、一時的に消えたりすることもあります。
そのため、「そのうち良くなるだろう」と軽く考えてしまい、治療を先延ばしにするケースも珍しくありません。
放置した場合のリスク
初期症状を放置してしまうと、次第に痛みが強まり、安静時にも痛みを感じるようになります。進行すると、下記のようなリスクが生じることがあります。
・炎症が広がり、腱に損傷が生じる
・肘の可動域が狭くなる
・家事や仕事に支障が出る
・慢性化し、治療が長引く
・重症化して手術が必要になることもある
また、テニス肘は再発しやすいため、悪化する前に早めの治療を行うことが重要です。
症状を軽く見ず、専門的な診断や適切なケアを受けることで、回復までの期間を短縮でき、再発も防ぎやすくなります。
テニス肘になる原因
なぜ、テニス肘になるのでしょうか。主な原因は、繰り返しの動作と加齢による筋力や腱の変化の2つです。
繰り返しの動作
テニス肘は、テニスやバドミントン、卓球、ゴルフなどのスポーツをする方に多くみられる症状です。ただし、スポーツをしていない方でも、手首や肘を使う動作を日常的に繰り返すことで発症することがあります。
特に下記のような動作は、テニス肘の原因となりやすいとされています。
・テニスのバックハンド動作
・ゴルフスイング
・包丁を使った料理
・長時間のPC作業(キーボードやマウス操作)
これらの動作により、短橈側手根伸筋(たんとうそくしゅこんしんきん)という筋肉の付け根にある腱に負荷がかかり、微細な損傷が繰り返されることで炎症が起こります。これがテニス肘の主な原因のひとつです。
加齢
テニス肘は、30〜50代以降に多く発症する傾向があります。若い年代では比較的発症しにくいのに対し、中高年になると発症率が高まるのは、加齢にともなう身体の変化が関係すると考えられています。
年齢とともに腕の筋肉量や筋力が低下し、腱や筋肉の柔軟性や修復力も衰えるため、少しの負荷でも炎症や損傷が起こりやすくなるからです。特に、短橈側手根伸筋などの腱へのダメージが蓄積されることで、テニス肘を引き起こしやすくなります。
男女問わず発症しますが、とりわけ中高年の女性に多いのが特徴です。女性は男性よりも筋力が少なく、家事や育児などで日常的に腕を使う機会が多いことから、肘への負担が大きくなりがちです。そのため、スポーツをしていなくても発症するケースが多いと考えられています。
テニス肘になった際の応急処置
テニス肘を発症した場合、初期段階での適切なセルフケアが症状の悪化を防ぐ上で重要です。痛みが出始めたばかりの急性期と、ある程度時間が経った慢性期とでは、対処法が異なるため注意しましょう。
・急性期は冷やす
痛みが出始めた直後は、患部に炎症が起きており、熱をもっている状態です。この時期は冷やすのが効果的です。
保冷材や氷を入れたビニール袋をタオルで包み、患部に15分ほど当てると痛みや腫れが和らぎます。1日に数回、間隔をあけて繰り返すと良いでしょう。
・慢性期は温める
痛みが長引いている慢性期には、冷やすよりも温めることが推奨されます。温熱によって血行を促進し、筋肉や腱のこわばりをほぐすことで、回復をサポートします。
温める方法としては、入浴や蒸しタオル、温湿布、使い捨てカイロなどが手軽でおすすめです。
テニス肘の主な対処法
テニス肘になった場合、どのような対処法があるのでしょうか。主な対処法をみていきましょう。
局所安静
テニス肘の初期段階で重要なのは、患部を安静に保つことです。テーピングや肘用ベルトなどを使い、手首や肘にかかる負担を減らしましょう。
また、下記のような肘に負担がかかる動作は避けることが大切です。
・テニスやゴルフなどのスポーツ
・重いものを持ち上げる動作
・長時間のPC作業
・家事(料理、掃除、洗濯など)
薬物療法
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)を使った外用薬や内服薬などによる治療が一般的です。痛みや炎症を抑える効果があります。
痛みが強く、通常の治療で改善がみられない場合には、ステロイド注射を打つ場合もあります。
リハビリテーション
リハビリでは、症状の時期に応じた治療が行われます。
・急性期
アイシング(冷却)で炎症を抑えます。
・慢性期
温熱療法・電気刺激療法・光線療法などの物理療法や、筋肉や腱を伸ばすストレッチなどの運動療法を行います。
医師や理学療法士の指導のもと、段階的にリハビリを進めることが大切です。
手術療法
保存療法(安静・薬・リハビリ)を続けても症状が改善しない場合、手術が検討されます。
手術では、関節鏡を使って変性した腱や組織の除去・修復、あるいは骨棘(こつきょく)※の切除などを行います。
※骨棘:骨の端にできるトゲ状の突起
テニス肘にならないための予防法
テニス肘は一度痛みが治っても、無理をすると再発しやすいのが特徴です。
再発を防ぐためにも、日頃から肘をいたわる習慣を身に付けましょう。ここでは、テニス肘の予防に役立つポイントを紹介します。
サポーターやバンドを使う
テニス肘の主な原因は肘の使い過ぎです。サポーターやエルボーバンドを活用し、肘にかかる負担を軽減するのがおすすめです。
サポーターやエルボーバンドを装着することで筋肉や腱の動きを制限し、関節を安定させる効果が期待できます。スポーツ時だけでなく、家事や仕事などで腕を使うときにも使用できるので持っておくと便利です。
着けるときは、正しい位置に装着されているか、締めつけ過ぎていないかを確認しましょう。
ストレッチをする
テニス肘の予防や再発防止には、前腕の筋肉を柔らかく保つことが大切です。特に、上腕骨外側上顆に付着する筋肉(伸筋群)を伸ばすストレッチが効果的です。
下記のようなストレッチを、無理のない範囲で毎日行いましょう。
1.ストレッチする側の腕を前にまっすぐ伸ばす
2.手のひらを下に向け、親指を内側にして手首を曲げる
3.反対の手で、人差し指と中指をそっと引き、手首をさらに曲げる
4.肘をしっかり伸ばしたまま、30秒ほどキープする
このストレッチに加えて、腕の表側と裏側、手首の内側への動きも取り入れると、前腕全体の柔軟性が高まります。
それぞれのストレッチを1日3回程度、継続して行うのが理想です。
正しいフォームを意識する
テニス、ゴルフ、バドミントン、卓球などのスポーツでは、フォームの乱れが肘への負担につながります。特にバックハンドの動作やスイング動作は、テニス肘の原因になりやすいため注意しましょう。
フォームに不安がある場合は、コーチに相談したり、動画でフォームを確認したりするのもおすすめです。
また、ラケットやクラブなどの道具は、自分の筋力やスキルに合った軽量で扱いやすいものを選ぶことで、無理な力を入れずに済み、肘の保護につながります。
まとめ
テニス肘は放置すると痛みが慢性化し、日常生活や仕事にも支障をきたすおそれがあります。痛みを感じたらまずは安静を保ち、急性期は冷やす、慢性期は温めるなど、状態に合ったセルフケアを行いましょう。また、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることも大切です。
サポーターの活用やストレッチ、正しいフォームを意識することで再発予防にもつながります。日頃から肘に負担をかけないよう意識し、テニス肘の予防と改善に努めましょう。